2010年4月8日木曜日

経済学部を出たんだから……

「経済学部ご出身なんだから、経済にはお詳しいんでしょう」

そんなことを言われることがある。確かに経済学部を出ている以上、経済のことは詳しいはずだし、よく分からないというのであれば情けないと考えるのが普通だろう。

■ 大学で学ぶのは主に理論

しかし、経済学部で教授される事柄は、数学等を使った経済理論が中心で、実体経済や制度、時事問題といった事柄はあまり教授されない。少なくとも、私が出た大学・学部はそうだった。

私が受講した国際経済学の第1回の講義で、先生がおっしゃった次の言葉がそのことをよく表している。

「この講義を受講しても、例えば日本とアメリカの貿易関係が分かるようになるとか、そうしたことはありません。この講義で学ぶのは理論なのです」

そして、講義では、リカードの比較生産費説やヘクシャー=オリーン定理、要素価格均等化定理、ストルパー=サミュエルソン定理といった話を、数式を用いながら解説していったのだった。

しかし、「大学で学んだのは理論ばかりだったので、時事問題はさっぱり分かりません」では、世間では通用しない。理論以外の経済に関する事柄は、新聞や本を読むなどして、自ら学ばなければならない。

■ 「経済」と言っても、幅広い

だいたい、経済と言っても、学ばなければならない領域は非常に広い。学部で言うと、経済学部で学ぶ内容のほかに、商学部、経営学部、さらには一部法学部で学ぶ内容も、経済に関する内容を含んでいる。

実際には、経済学を専攻した人は、商学や経営学、法学といったところにはやや疎いものだ。しかし、世間はそういう目では見てはくれない。ある企業経営者は、マルクス経済学で有名な私大の経済学部を出たのだが、若い頃「お前は経済学を専攻したのに、会計も分からないのか!」などと叱責されたそうだ。経済学と会計学は全く別の分野なのだが、世間は「経済学を専攻したのだから、会計も詳しいはずだ」と見てしまう。

経済学分野に限ってみても、幅広い。経済理論、財政、金融、国際経済、労働経済、経済史、環境、社会保障、地域経済……どの学生も、そのうち一分野のみを専門にして、学び、研究しているのが実情だ。しかし、世間はそうは見てはくれない。「経済学部を出たんだから、財政問題には詳しいでしょう」「経済学部を出たんだから金融政策には詳しいでしょう」「経済学部を出たんだから失業とか貧困、格差問題には詳しいんでしょう」「経済学部を出たんだから、景気の予測はできるでしょう」「経済学部を出たんだから、株には詳しいんでしょう」「経済学部を出たんだから、話題のベーシックインカムについても詳しいんでしょう」

これらについて、「分からない」では済まされない。経済学部卒は、学ばなければならないことが山ほどあるのだ。学部の単位を揃えて満足しているだけでは不十分だ。決して、楽な学部ではないと私は思っている。